さんちつくりべ 蕪重織物

蕪重織物

新潟 十日町

蕪重織物

 世界でも有数の豪雪地帯である新潟十日町。雪の多い冬場は外出するのも困難なため、昔は織物を織ることが人々の生活の糧でした。こうして脈々と受け継がれてきた織物の文化が根強く残っている街が十日町です。また、雪解けの豊富で良質な水は染色にとっては天の恵みであり、織物だけでなく、染物も発展し、染と織、両方を手掛ける全国屈指の着物総合さんちとなりました。1872年(明治5年)創業の「蕪重織物」はここ十日町で、脈々と受け継がれてきた織物の歴史を礎に、新しい技術と感性を取り入れながら時代に即した人々の美意識に合うものづくりを行っています。

豪雪地帯としても知られる新潟十日町。毎年平均2mもの雪が降り積もります。冬場は農作業が出来ないため、家内での織物が生業となりました。

豪雪地帯としても知られる新潟十日町。毎年平均2mもの雪が降り積もります。冬場は農作業が出来ないため、家内での織物が生業となりました。

雪どけ水による豊富な地下水は、染色に好適な軟水で、すばらしい発色効果をもたらします。(写真:信濃川)

雪どけ水による豊富な地下水は、染色に好適な軟水で、すばらしい発色効果をもたらします。(写真:信濃川)

十日町には、縄文土器で最初の国宝が見つかった笹山遺跡があり、出土数は全国最多。(写真:国宝 火焔型土器)

十日町には、縄文土器で最初の国宝が見つかった笹山遺跡があり、出土数は全国最多。(写真:国宝 火焔型土器)

布海苔という海藻をつなぎに使った、つるりとした食感と、コシの強さが特徴の「へぎそば」も有名。また、魚沼産コシヒカリのさんちでもあります。

布海苔という海藻をつなぎに使った、つるりとした食感と、コシの強さが特徴の「へぎそば」も有名。また、魚沼産コシヒカリのさんちでもあります。

「設計」から「糸準備」「染め」「絣つくり」「織り」ものづくり全ての環境が整備されている蕪重織物さんの社屋外観。

「設計」から「糸準備」「染め」「絣つくり」「織り」ものづくり全ての環境が整備されている蕪重織物さんの社屋外観。

十日町紬の美しい先染めの「糸」。

十日町紬の美しい先染めの「糸」。

作り手インタビュー

蕪重織物 社長
蕪木 良一さん

蕪重織物 社長 蕪木 良一さん

「雪と織物と縄文土器の街 十日町」に創業し、十日町紬を中心にものづくりを続ける「蕪重織物」さん。休みの日には、十日町から六日町にかけて山野をランニングするのが趣味という蕪重織物社長 蕪木良一さんにお話しを伺いました。

十日町紬について教えてください。

雪国という環境で育まれたきもの

 十日町紬は、新潟県十日町市やコシヒカリでも有名な中魚沼郡津南町周辺でつくられている絹織物で、その歴史は古く、飛鳥・天平の時代にまで遡ります。十日町は、世界にも類を見ない豪雪地帯で、冬には毎年2mもの雪が降り積もるんですよ。冬場は農作業ができないため、昔から家内で織物を生業としながら暮らしてきました。雪により湿度が高く保たれ、盆地という地形も織物に適した環境で、古くは苧麻(ちょま)を素材とした麻布の生産が盛んに行われていました。今のように絹織物がつくられるようになったのは、主に明治時代以降と言われています。そして戦後、昭和30年代後半くらいからは、先染めの「紬」のみならず、十日町「友禅」といった「後染め」のきものの生産なども増え、十日町は、染め・織りどちらも手掛ける、総合きものさんちとして発展し、京都に次ぐ、きものの一大さんちとなりました。そのような中、蕪重織物は、昔から伝わる十日町紬の技術を受け継ぎ、護りながら、ものづくりをしています。

ものづくりの「こだわり」は?

きものはあくまで「着る人」が主役。
だから着物自体には盛り込みすぎないように心掛けています。

 昔は、ものづくりに携わる人間として、いっぱい技術を詰め込んで、ものすごいものを作ろうとしたこともありました。しかし、着物はそれ自体がどんなに華やかなものであろうが、帯をして帯締め・帯揚げを合わせ、「着て」はじめて形になるもの。だから、着物自体は、そんなに主張しなくて良いと、私は思っています。あくまで「着る人」が主役なのですから。
 もちろん、綺麗なもの・素敵なものを作ろう!とは思っているのですが、その綺麗さを見つけてくださるのは、作り手ではなく、生活の中で着てくださる方々など、周りの人たちであって、着物は、そうした暮らしの中で輝くものです。ですから、私は常に「盛り込みすぎない・やりすぎない」ように心掛け、着る人の魅力を引き立てるようなものづくりに拘っています。

糸が巻かれている芯は、雨どいに使われる筒を蕪木さんが一つ一つ切って作った自作のもの。
より良いものづくりのために、道具も自作しています。

― 十日町紬 ―
雪に囲まれて育ったきもの

絹織物特有の光沢感と風合いが美しさが魅力の十日町紬。
デザイン・糸の準備・染め・絣つくり・織りの工程に至るまで
十日町で一貫生産される雪国のきものをご堪能ください。

方眼紙に図案を作成したら、織りで色柄を表現するため、経糸と緯糸それぞれ設計していきます。

方眼紙に図案を作成したら、織りで色柄を表現するため、経糸と緯糸それぞれ設計していきます。

糸を濃い色に染める場合は、先に絣(柄)になる部分を括って、糸を染めた際、絣部分が染まらないようにします。その後に、糸を染めていきます。

糸を濃い色に染める場合は、先に絣(柄)になる部分を括って、糸を染めた際、絣部分が染まらないようにします。その後に、糸を染めていきます。

淡い色の糸に、色の絣(柄)を表現する場合は、糸を先に染めた後、「摺り込み」という工程で、専用の機械を用い、絣部分に色を入れていきます。

淡い色の糸に、色の絣(柄)を表現する場合は、糸を先に染めた後、「摺り込み」という工程で、専用の機械を用い、絣部分に色を入れていきます。

染められた糸は、100℃以上の蒸気で蒸され、色を定着させていきます。

染められた糸は、100℃以上の蒸気で蒸され、色を定着させていきます。

染め上がった経糸と緯糸は、絣糸・地糸それぞれ、整経・整緯され、織りの作業へと移ります。

染め上がった経糸と緯糸は、絣糸・地糸それぞれ、整経・整緯され、織りの作業へと移ります。

織りの着物は、糸が染め上がってから織りの工程に移るまでの下準備がとにかく大変な労力を要します。

織りの着物は、糸が染め上がってから織りの工程に移るまでの下準備がとにかく大変な労力を要します。

入念な下準備が済んだら「織り」の工程へと移ります。糸切れやフシなど目で確認しながら織り進めていきます。

入念な下準備が済んだら「織り」の工程へと移ります。糸切れやフシなど目で確認しながら織り進めていきます。

作り手インタビュー

織り 春日トモさん

織り 春日トモさん
春日さんにとって「織り」の仕事とは?

「織り」の仕事は大好きです。いつまでやれるか分からないけど続けたいです。

 「織り」の仕事は、中学校を卒業した後、機屋さんに入り、その頃からやっていましたが、結婚して子供が出来てからは、いったん「織り」の仕事からは離れていました。その間、全く別の仕事に就いていたのですが、定年退職し、孫も大きくなって手がかからなくなった時、「これから何をしようか」と考えた時に浮かんだのが、「織り」の仕事でした。
 私は家で織りの仕事をしているので、家の改築をする際、織機を家に置きたいと家族に相談した際、場所をとるからと家族には反対されたのですが、どうしても私がこの仕事をしたいから!と家族を説得し、織機を家に置いて、今仕事をしています。
 織りの仕事は、体が資本です。朝30分~40分ほど毎日歩くようにしながら体力を維持して仕事をしています。いつまでやれるか分からないけど、続けたいですね!仕事があることで、今日も頑張ろう!という気力にもつながっています。