結城紬最大の魅力「真綿の風合い」を活かした結城紬
国の重要無形文化財に指定された「糸つむぎ・絣くくり・地機織り」の工程は、1点織りあげるのに相当な時間を要します。更には後継者不足・従事者の減少も相まって、本場結城紬は高級絹織物として価格も高騰していき、中々手にすることの出来ない遠い存在へとなっていきました。
こうした流れの中、「軽くて、あたたかく、着心地がよい」真綿の良さを最大限に活かしながらも、より効率化させることで、一人でも多くの人に、より身近に、よりお求めやすく提供できないものか、と結城産地のチャレンジが始まりました。こうして生まれた真綿の紬は、「結城紬」として製品化され、重要無形文化財指定のものを「本場結城紬」と呼ぶことで温故知新のものづくりをしています。
本場結城紬の流れをくみアップデートされた結城紬
糸真綿動力引糸…真綿のぬくもり、風合いを最大限に活かした糸を使用
本場結城紬では、つくしという道具に真綿をかけ、指先で唾をつけながら撚りをかけずに糸を引き出していきます。1反分の糸を紡ぐには、2~3カ月かかるとも言われます。産地では、この「真綿」の風合いにこだわり、技術革新を模索しました。試行錯誤を繰り返した結果、従来通り、真綿を使用しながら、動力を併用することで、真綿の温かさ・風合いを損なうことなく真綿動力引糸をつくることに成功しました。
更には、撚りがなく切れやすかった従来の真綿糸に生糸を絡めることで、経糸を機織り機にかけた際、切れにくくなるよう、更に工夫が重ねられました。
絣つくり絣くくり・直接染色法・型紙手捺染染色法の導入
結城紬の柄を構成する絣(点)は、設計図案を基に、大きく3つの方法で作られています。
<絣くくり>
絣にする部分を木綿の糸で括り、防染します。糸全体を染めた後、縛ってある木綿の糸を外すと、括ってある部分が染まらずに白い絣が出来上がります。
<直接染色法>
絣となる部分に直接染料を摺り込んでいく方法です。淡い地色に濃い絣を表現する際などに用いられます。やり直しの出来ない、集中力と熟練の技が必要とされます。
<型紙手捺染染色法>
一反分の糸を台に延べ、型紙を置いた上から染料を流し、染めていきます。ここで使用する型紙も結城産地で手彫りでつくっていますが、型紙職人は85歳の方お一人のみだそうです。
こうして作られた細かな絣を合わせていくことで、反物に繊細な柄が浮かび上がります。
織絣手合動力機…絣合わせは手で行いながらも動力を用いて生産効率向上
重要無形文化財指定の本場結城紬では、地機とよばれる原始的な織機を用いて、経糸を腰に結びつけ、腰の力で張り具合を調節しながら織られていきます。体全体を使って織る重労働のため、自分の羽を1本づつ抜いて美しい反物を織りあげていく「鶴の恩返し」の民話にも例えられています。
生産効率を向上させるべく、動力機を導入するにも、他の綿や絹織物とは違い、経糸・緯糸共に繊細な真綿糸を使用する結城紬の織りはデリケートで、熟練の人の手を介さないと良い製品にはなりません。織工さんは、経糸の絣と、緯糸の絣を手で合わせながら織りあげていく必要があります。また、経糸に真綿糸特有の「フシ」があると、織りの際に経糸が切れてしまう恐れもあるため、ピンセットでフシを外したりと、大変な手作業を伴います。
この動力機を導入したことにより、結城紬の柄表現も格段に広がりました。かつては無地・縞、そして単色の絣模様からはじまり、亀甲絣とデザインも広がりましたが、今では、多色の絣を用いた柄や、細かい曲線など、複雑な柄も表現できるようになり、結城紬のファッション性が高まりました。
さんちとやまとで共同開発した独自の技術で、美しいグラデーション表現を実現
結城紬のさんちと、私たちやまとが共に生み出した独自の技術があります。それは、「間差し込み技法」。異なる色の経糸を本数の割合を調整して並べ替えることで、染めたかのように美しいグラデーションを表現する技術です。結城紬の経糸は全部で1360本あり、1本1本、図案に沿って糸を筬に通していく作業は、かなりの集中力と根気を要します。
「こんな細かな作業をするのは、夜、誰も人がいない中でやるのがいいんだよ」と語る中川啓さん(69歳)。この間差し込み技法が出来るのは、中川さん含めてたった2人しかいないそうです。
こうした弛まぬ創意工夫と努力で、結城紬のデザイン性・ファッション性も高まり、カジュアルシーンを素敵に彩る絹織物として、多くの方々に好評を得ています。
<間差し込み技法>
異なる色の糸の配列密度を変えることで、自然なグラデーションを表現
さんちの新たなものづくり 暮らしと共に。
高級絹織物として知られる結城紬ですが、真綿本来のぬくもり、しなやかさ、をもっと身近に、日常に、との想いで、今では着物の反物だけではなく、真綿をつかったショールなどのファブリックアイテムにも手掛けています。和装の機会も少なく、洋装が主流となった現代においても日常的に、結城の真綿のぬくもりに触れることが出来ます。
<結城真綿ショール>
真綿ショールは、自然素材の絹100%の真綿動力引糸を使用。真綿は暖かで丈夫な、蒸れにくい素材。
湯通し済みなので、肌馴染みがよく、優しいぬくもりを感じていただけます。