さんちつくりべ 白根澤

白根澤

山形 米沢

白根澤

 山形県置賜地方の最南端に位置する上杉氏米沢藩の城下町「米沢」。関ヶ原の合戦で豊臣側についた上杉氏は、会津120万石を没収され、米沢30万石に移封されました。時の藩主 上杉景勝公の側近だった、愛の文字を模った兜でも有名な直江兼続により、現在につづく城下町の街並みが築かれました。元々米沢の領民は、青苧(あおそ)を材料に自家製の麻織物をつくっていましたが、兼続がこれを産業とし、整備したのが米沢織のルーツと言われます。江戸時代中期、米沢藩9代目藩主の上杉鷹山公により、藩の財政立て直しのため、下級武士の内職として機織りが奨励され、米沢が絹織物のさんちとして知られるようになりました。白根澤家は、この上杉鷹山公の時代から織物を家業として、約250年にわたる歴史と伝統を継承しながら、米沢織一筋のものづくりを日々行っています。

五月雨を あつめて早し 最上川。松尾芭蕉の句でも有名な最上川。「母なる川」として地元で愛されています。

五月雨を あつめて早し 最上川。松尾芭蕉の句でも有名な最上川。「母なる川」として地元で愛されています。

養蚕や織物を産業として確立させた米沢藩主「上杉鷹山公」。白根澤家は、この時代から織物を家業としてきました。

養蚕や織物を産業として確立させた米沢藩主「上杉鷹山公」。白根澤家は、この時代から織物を家業としてきました。

鷹山公は養蚕を奨励するため、桑の苗木を領内各地に送ったといわれ、その1本がこの桑の木といわれています。

鷹山公は養蚕を奨励するため、桑の苗木を領内各地に送ったといわれ、その1本がこの桑の木といわれています。

鷹山公が祀ってある松岬神社。米沢の織物組合では鷹山公への尊敬の意を込めて、お正月には銅像をみんなで拝しています。

鷹山公が祀ってある松岬神社。米沢の織物組合では鷹山公への尊敬の意を込めて、お正月には銅像をみんなで拝しています。

白根澤家に伝わる江戸時代の武士の裃。ピンと張っている芯には、鯨の髭がつかわれています。

白根澤家に伝わる江戸時代の武士の裃。ピンと張っている芯には、鯨の髭がつかわれています。

明治時代、米沢で一番最初にジャカード織機を導入した白根澤。経糸、緯糸を絡めることで隙間をつくり透かしを表現する「もじり織」を得意としています。

明治時代、米沢で一番最初にジャカード織機を導入した白根澤。経糸、緯糸を絡めることで隙間をつくり透かしを表現する「もじり織」を得意としています。

作り手インタビュー

株式会社白根澤 十一代目 社長
白根澤義孝さん

白根澤 代表 二代目 白根澤義孝さん

 米沢織の老舗、織元白根澤のルーツは、古くは江戸時代中期、上杉鷹山公が絹織物を奨励した時代にまで遡ります。1770年(明和6年)に創業して250年余り、米沢織一筋でものづくりを続けています。明治時代には、米沢でいち早くジャカード織機を導入し、それまで、無地や縞、格子の柄くらいしかなかった織物に、美しい柄が表現できるようになりました。伝統にあぐらをかくことなく、新しいものづくりへのチャレンジをし続ける白根澤の十一代 白根澤義孝さんにお話しを伺いました。

この仕事に就いたきっかけは?

敷かれたレールにのるようで嫌でしたが、どこかで継ぐという自覚はありましたね。

 うちは今年で創業してから252年になります。親父が10代目で、子供のころから、親からも周りからも当たり前のように跡取り息子という感じで見られていて、何となく、この家を継がなくてはいけないんだろうな、ということは感じていました。小さいころはそれがレールに敷かれたように思えて嫌でしたけどね(笑)。
 そんなこともあり、高校でも繊維関係を専攻して学んだ後、卒業してからも大学に入って染色関係の勉強をしていました。卒業後は、京都へ丁稚奉公に4年ほど出てから家に戻りました。京都の問屋さんで修行していたときには、米沢さんちに限ることなく、日本全国でつくられた多種多様な着物に触れ、見識が広がりましたが、実際にものづくりの現場にはいませんでした。家に戻り、いざ、ものづくりとなると、経糸と緯糸の計算、風合いを生む技術、どれもこれもが難しい仕事で、一からの勉強でした。ものづくりの仕事に馴染むまでには、最低でも5年くらいはかかったかと思います。

ものづくりの「こだわり」は?

ジャカード織による美しく複雑な「透かし」の柄表現

 うちは、明治時代に米沢で一番最初にジャカード織機を導入しました。それ以前は、柄ものと言えば、縞とか格子、絣模様くらいしか出来なかったんですよね。ジャカード織機を入れたことで、それまでには表現できなかったような細かな柄なども創作できるようになりました。当時としては相当画期的なことだったと思います。
 織物は一般的に、経糸と緯糸が交わって織り上がる「平織」が基本ですが、糸を絡めることによって隙間をつくり、美しい透かしを表現する「もじり織」を、先代であり私の父が研究し、創るようになりました。もじり織は、経糸が他の経糸と互いにからみあうことから、からみ織と言われ、夏着物として馴染のある、紗・絽・羅なども、このもじり織に属します。
 うちでは、夏の着物ではなく、柄の部分だけを透かした、特殊なもじり織を手掛けています。

柄の部分だけ透かしになっている、特殊なもじり織の着物。

柄の部分だけ透かしになっている、特殊なもじり織の着物。

ジャカード織機を米沢で一番最初に導入した白根澤。ジャカードとは、フランスの発明家、ジョゼフ・マリー・ジャカールの名前に由来します。

ジャカード織機を米沢で一番最初に導入した白根澤。ジャカードとは、フランスの発明家、ジョゼフ・マリー・ジャカールの名前に由来します。

ジャカード織機の手入れも自分たちで行います。今ではつくられない部品もあるため、壊れて解体された部品もとってあります。

ジャカード織機の手入れも自分たちで行います。今ではつくられない部品もあるため、壊れて解体された部品もとってあります。

織りの着物は染物と違い、実際に織ってみないとどんな色に上がるか分からない。思い描いた納得のいく出来栄えになるまで創意工夫。

 染めの着物は、それはそれで染色の難しさというものはあるかと思いますが、白生地に染料で染めて行けば、その場で目で見て色が分かります。こういう色に仕上げたいと思えば、確認しながら進められます。一方、織りの着物というのは、経糸と緯糸が全く同じ色であれば、織り上がりの色も想像つきますが、経糸と緯糸の色は普通異なりますので、経と緯の色が組み合わさって深みのある織の色が生まれます。経糸と緯糸が交わって生まれる色は、最終的に織ってみないと分かりません。
 今回、やまとさんのオリジナル商品を創作しましたが、指定された色合いを作り上げるのには大変苦労しました。やまとさんとのコラボレーションとなると、いつも自分たちがやりやすい色ではない、初めての色づくりからスタートします。経糸の色をどうしようか、緯糸の色をどうしようか、織り上がりの色に納得がいくまで試行錯誤し創り上げました。思い通りの色が表現できた時は、本当にうれしかったですね。

― もじり織 ―
透かしに見る優美さ

江戸からつづく伝統にあぐらをかくことなく、米沢の地にて白根澤の十代目が始めた
ジャカード織機による透かし模様が美しい「もじり織」。
父から受け継ぎ、今につなぐ十一代の匠の技をご堪能ください

作り手インタビュー

ジャカード織機 織工
小関敦子さん

ジャカード織機 織工 小関敦子さん
この仕事を始めたきっかけは?

もともとこの会社で事務仕事をしていましたが、やってみるか、と言われて。

 私は、もともとここの工場で事務の仕事をやっていましたが、「機織りやってみるべ」と言われてはじめました。織りの仕事に就いてから約5年くらいになります。複雑な機械と、生ものの糸を扱う技術職なので、織れるまでには、定年退職された方にも戻ってきてもらって教えてもらったり、やってもらったりしながら育ててもらいました。もちろん失敗もいっぱいしましたね。

織りの仕事で大変なことは何ですか?

糸も機械も生き物です。機嫌の良いとき、悪いときがあるんです。

 織りの仕事は、決められたとおりにやれば決まった通りに出来るものではなく、毎日、糸と機械の機嫌を見ながら進めなくてはいけません。糸はもちろんですが、機械も調子の良いとき、悪いときがあるんですよ。
 また、糸も気温や湿度に影響されることもあり、機を止めてお昼休憩に行ったあと再開したときに、いかにも織り始めました、みたいな段がついてしまったりする場合もありますので、ムラにならず綺麗に織り上がるように、機が動いている間、しっかりと糸と織機に向き合わなくてはなりません。特に、経糸などは、糸に毛羽立ちがあったりすると、そこが織ムラになったり、経糸が切れたりすることもありますので、糸の状態を、下から光を当てて見ながら、毛玉をとったりと、大変手間がかかります。

下から光を当てて、糸の毛羽立ちなど糸の状態をチェックします。毛羽があればピンセットで取り除きます。

下から光を当てて、糸の毛羽立ちなど糸の状態をチェックします。毛羽があればピンセットで取り除きます。

柄表現には欠かせない紋紙。紋紙1枚(約5cmくらいの巾)で緯糸1本分です。穴の有無により、綜絖(そうこう)が動き、経糸が連動します。そこに緯糸が渡ることで柄が生まれます。

柄表現には欠かせない紋紙。紋紙1枚(約5cmくらいの巾)で緯糸1本分です。穴の有無により、綜絖(そうこう)が動き、経糸が連動します。そこに緯糸が渡ることで柄が生まれます。

織機も生き物。織場には、工具が色々と並んでいます。

織機も生き物。織場には、工具が色々と並んでいます。