手仕事についての話

 有松鳴海絞りは分業制。専門技術を持つ職人さんから職人さんへ1枚の布がバトンのように受け渡されながら一つの商品として完成します。伝統を守り続け、技を受け継いでいる職人さんに、仕事についていろいろ伺いました。

● 絞り子 三人姉妹の長女 近藤鈴江さん

 絞りの世界に飛び込んで80年以上の近藤さん。近所に住む二人の妹さんも絞りの職人をしています。週に1回、絞りの納品があるときに三人は集まります。

長女鈴江さん
「手仕事で絞りをするのは、とても楽しい。まだ絞り浴衣をつくってあげたい孫がいるからがんばらなきゃ。」

次女トモ子さん
「絞りを縫っているときはどんな柄の絞り浴衣になるのか分からないの。でもたまに完成したところをみられる事があってきれいに仕上がっていると、とっても嬉しいの。」

三女トシ子さん
「今年大学院を出た孫にずっと着られるような絞り浴衣をつくってあげたら喜んで電話をくれたのよ。」

 三人の明るいおしゃべりを聞いているととっても元気になるのが不思議です。お話ししながらも手はどんどん縫って、絞りを完成させていきます。そして、三人とも共通しているのは「絞りという手仕事が楽しい」ということと小さなころから、絞りに触れ慣れ親しんできているということ。
職人さんというと、緻密さと強さが求められる厳しい世界を想像してしまいますが、明るく元気な3人の手仕事から生まれる絞りはきっとやさしくて、美しい。そんな風に感じることができました。

● 染色 三浦鈴世さん

 50年以上前からある染色工場をお父様から継いで、切り盛りしている三浦さん。一度は旦那様が亡くなられたことで閉業も考えましたが、絶えずくる染めの注文のおかげでやめることなく、続けています。周りへの感謝を言葉にする三浦さんにお話を伺いました。

 「自分一人ではそんなにできるとは思わなかったんですけど、染めの仕事を出して頂けてやってみたら不思議にできたものですから、今現在もこうして続けることができています。

 たまたま、開いていた絞り教室にきてくれていた方たちが、お手伝いに手を挙げてくれたので、私を含め4人でここで染めの仕事をしています。

 流し染めをやっているのが、今はうちを含め有松では2軒のみなのですが、注文を頂けることで昔のままの技法をみんな勉強しながら実際にできるのでとても感謝しています。

 このまま一緒に働いてくれている3人が技術を継承してくれたらありがたいと思っています。仕事でなければこうした専門技術は続きませんので、今は、どれだけこの有松で、技術が残せるかが課題だと思っています。

 うちは女性ばかりですが、なんとかこうして維持をすることで、有松鳴海絞りという伝統産業を支えることができればよいなと思っています。」

5年前からチャレンジしている藍染。実用的ではない染めだけに大変だが試行錯誤しながら今はしっかり商品として出せる染めに仕上がっている。