有松にいくと、二つの奇跡に出会えます。
まず一つ目は、「有松鳴海絞り」という伝統的な染めの技法とそれに今でも携わる職人さんに出会えること。そして二つ目は、明治、大正、昭和、平成と時代がどんどん変わっていくなかで名古屋にほど近いベッドタウンとして機能している場所で、歌川広重の版画そのままの江戸時代のしっとりとした雰囲気を味わうことができるということ。
今回は、有松でもひときわ重厚な雰囲気の竹田邸で、有松鳴海絞りを扱う竹田嘉兵衛商店の竹田会長と浦田課長に歴史あるお茶室と建物を案内していただきました。
この竹田邸には江戸時代に建てられたとされるお茶室が残されており、徳川14代将軍家茂も2回訪れたと伝えられています。普通は低くつくられるにじり口も、大きく作られているのが印象的。天井にも昔かけていたガス灯のフックが残っていたりと、部屋に入るだけで気持ちがタイムスリップしてしまう場所になっています。
他にも明治時代に作られた、和の要素が美しく取り入れられた洋室は、当時のお茶の家元の方がデザインしたお部屋だとか。また別のお部屋には、勝海舟直筆の書が見事に飾られていたりと、ついつい時間を忘れて、ノスタルジックな気分にさせられます。
笑顔が素敵な竹田会長と素晴らしい絞りの振袖が玄関で私たちを迎えてくれました。
「奇跡的にこうした街並みが残ったのはアメリカ軍の収容所があったことで戦火を逃れられたことがあげられます。また戦後すぐにこの街並みを保存しようという運動を当時の有松の人々がしたんです。この素晴らしい取り組みは全国に広まっていき、今でも続いています。」と竹田会長が教えてくれました。
高度成長期を迎えた、いわば大量生産、大量消費の日本の中で、古い街並みに対する「美意識」が有松に住む方々にあり、それを残す努力をされたことで、今私たちは素晴らしい街並みを堪能することができます。
単純な合理的な考え方では計れない、暮らしの中での「美しさ」とはなにかを、有松の街並みの中で、考える機会を頂くことができました。