さんちつくりべ 田島染芸

田島染芸 ―東京染小紋―

東京 石神井

田島染芸 ―東京染小紋―

 都心にありながら豊かな自然と大きな池がある石神井公園で有名な東京 練馬にて、約50年にわたりものづくりをしている田島染芸さん。現在の社長は2代目にあたる。創業した先代は、戦後、岐阜から上京し、歌舞伎衣装の染めの職人として腕を磨いて、その後独立。腕一本でたたき上げてきた義理人情に厚い職人さんだったそうです。従来の伝統的な江戸小紋の技法を今に伝えながら、型紙を2枚用いた「二枚型」と呼ばれる多色表現の染めや、紬地に染めた他さんちとのコラボアイテムなど、現代に合わせた新しいものづくりも高く評価されています。

都会のオアシス「石神井公園」。都会にあって豊かな自然を有し、四季それぞれ、違った表情を見せてくれる。

都会のオアシス「石神井公園」。都会にあって豊かな自然を有し、四季それぞれ、違った表情を見せてくれる。

石神井公園内にある三宝寺池は、武蔵野三大湧水池としても有名。武蔵野台地からの地下水が湧き出ている。

石神井公園内にある三宝寺池は、武蔵野三大湧水池としても有名。武蔵野台地からの地下水が湧き出ている。

もともとは平屋だった工場を増築し、2階に13mの反物を張る板場(柄付け・しごき染めを行う場所)を作った。

もともとは平屋だった工場を増築し、2階に13mの反物を張る板場(柄付け・しごき染めを行う場所)を作った。

通常の江戸小紋は1枚の型を1色で染めるが、複数の型を重ね、色糊も複数使い豊かな色柄の表現をする「二枚型」。

通常の江戸小紋は1枚の型を1色で染めるが、複数の型を重ね、色糊も複数使い豊かな色柄の表現をする「二枚型」。

作り手インタビュー

田島染芸 社長・伝統工芸士
田島敬之さん

田島染芸 社長・伝統工芸士 田島敬之さん

田島染芸の2代目、そして江戸小紋の伝統工芸士でもある田島敬之さん。
田島さん含め、色づくりの職人さん、染色の職人さんと3名でものづくりをしています。
全ての工程の設備が整った自社工房にて、東京染のものづくりについて、お話しを伺いました。

この仕事に就いたきっかけは?

実は、高校の担任の先生から「絶対やった方が良い!」と何度も言われて…。

 私は、この工房を受け継いで2代目になります。先代は私の叔父にあたるのですが、お子さんがいなく、叔父からは、継いで欲しいようなことは言われておりました。高校3年生の時の進路相談で、その話を担任の先生に話したところ、美術の先生だったこともあったのか、「絶対やった方が良い!」と親もひっくるめて何度も力強く言われました。それ以来、この仕事をずっと続けています。
 小学4年生以降は、野球にのめり込んでいたので、ここの工場にもあまり来ていませんでしたが、子供のころは、しょっちゅう工場に遊びに来ていて、この染めの世界というのは、とても身近なものでありました。私には今子供が3人いるのですが、学校が休みの時なんかは、工場に遊びに来ますよ。家には置ききれないので、こっちに漫画を置いているので(笑)。こうして染めの世界を身近に見てくれるというのは、嬉しいものですね。

ものづくりの「こだわり」は?

お客様に「手作りの善いもの」をお届けしたいと思っています。

 私たちがつくっているものは、人の手でつくっていますので、どうしても染めムラや、柄のズレなどが出来てしまいます。それを手作りの味わいと言って喜んでくださる方もいらっしゃいますが、作り手としては、そのようなムラが無いよう、高い技術で、高品質なものを届けたいという気持ちを持って仕事をしています。
 また、昔は7mの長板という台に白生地の反物を真ん中で折り返して柄付けを行っていて、その折り返しの部分を剣先というのですが、そこはどうしても柄がつながりません。昔はそこで裁断して仕立てていたのですが、時代とともに、この剣先の柄がつながっていない部分も「難もの」などと言われるようになったりしました。紬の生地でも糸の節目があると、難ものと思われる方も多いかもしれませんが、それと同じですね。そうした時代の移り変わりと共に、うちでも13mの反物を1反まるまる張って作業が出来るスクリーン台を導入するなど、変化させてきました。

今の風景にフィットするものをつくって行きたいです。

 江戸小紋は、京友禅や加賀友禅といった他の染め物と比べると、華やかさはありませんが、着物が主役なのではなく、着ている人を引き立たせてくれる魅力があり、今の街並みに自然と馴染む美しさが江戸小紋にはあると思っています。例えば、うちで創作している「二枚型」の多色表現をした小紋なども、今の風景に自然とフィットする美しさをイメージして作っています。

「二枚型」について教えてください。

様々な配色での色表現が出来、今の街並みに馴染む美しさのある着物です。

 一般的な江戸小紋が、1枚の型紙で柄付けをし、1色で地染めをするのに対し、二枚型の場合は、型紙を2枚使って1つの柄を表現します。型紙は同じでも様々な色表現が可能となり、配色をかえるだけで全く違った印象になるといいます。ちなみにうちでは三枚型や四枚型というのもあります。

2枚の型紙を使って奥行きのある色柄を表現する「二枚型」

違う柄が彫られた型紙(スクリーン型)。この型紙の柄が重なり合うことによって1つの柄となります。

違う柄が彫られた型紙(スクリーン型)。この型紙の柄が重なり合うことによって1つの柄となります。

まず1枚目の型紙を使い、柄になる部分に色糊をのせて行きます。スクリーン型は薄いため、色糊が乾いたのち、さらにもう一度上から糊を重ねて盛ります。糊をつける作業は左右のチカラを均一にしなくてはムラになってしまう為、高度な技術を要します。

まず1枚目の型紙を使い、柄になる部分に色糊をのせて行きます。スクリーン型は薄いため、色糊が乾いたのち、さらにもう一度上から糊を重ねて盛ります。糊をつける作業は左右のチカラを均一にしなくてはムラになってしまう為、高度な技術を要します。

白生地に色糊を置いたら、型紙についた色糊をきれいに洗い流します。洗い残しがあると、そこが染めムラとなってしまう為、道具の手入れも重要です。

白生地に色糊を置いたら、型紙についた色糊をきれいに洗い流します。洗い残しがあると、そこが染めムラとなってしまう為、道具の手入れも重要です。

1枚目の糊が乾いたら、つぎにもう1枚の型紙で糊を置いていきます。白生地の白目を活かした柄にする場合は防染糊、柄に色をつけたい場合は色糊を使います。

1枚目の糊が乾いたら、つぎにもう1枚の型紙で糊を置いていきます。白生地の白目を活かした柄にする場合は防染糊、柄に色をつけたい場合は色糊を使います。

2枚の型で糊を置いたら乾かし、その後、しごき染めといわれる技法で、地染めをしていきます。地染めが終わると、裏しごきといって裏面も染めていきます。

2枚の型で糊を置いたら乾かし、その後、しごき染めといわれる技法で、地染めをしていきます。地染めが終わると、裏しごきといって裏面も染めていきます。

蒸しの工程で色を定着させた後、水元と呼ばれる水洗いで余分な糊を落とし、乾燥させるときれいに色が入った着物が完成します。

蒸しの工程で色を定着させた後、水元と呼ばれる水洗いで余分な糊を落とし、乾燥させるときれいに色が入った着物が完成します。

蒸しの工程で色を定着させた後、水元と呼ばれる水洗いで余分な糊を落とし、乾燥させるときれいに色が入った着物が完成します。

二枚型で染め上げた田島染芸さんの東京染小紋

田島染芸 染色職人 尾有 隆太郎さん

田島染芸 染色職人 尾有 隆太郎さん

 田島染芸さんの、染めを支えるもう一人の職人さん。もともとは車の整備工として働いていました。その後、カナダにいた知人を頼って外国へ行ったそうです。カナダには1年ほどいた後、日本に戻りましたが、海外にいた時に、改めて日本の文化というのは素晴らしいということに気づき、伝統的な工芸品のものづくりに携わりたいとの想いで、この染色の世界に入ったそうです。

作り手インタビュー

田島染芸 色場(色づくり)
村山麻理さん

田島染芸 色場(色づくり) 村山麻理さん
色づくりの楽しさ・難しさは?

思った色が出た時は嬉しいです。染め上がりの瞬間はいつもドキドキです。

 学校で染色を習い、人の手でものをつくる「手仕事」に憧れてこの世界に入りました。東京染で使う染料は「生もの」です。つくり貯めしようと思っても、すぐにカビが生えてしまったり、退色したりしてしまいます。ですので、毎日、今日染める分だけの色をつくっています。
 この色づくりをする色場では、糊が乾いてしまうため、エアコンをつけることが出来ません。夏場は40℃近くになるときもあって、とにかく厳しい環境ですね。
 糊に染料を混ぜ合わせて色糊をつくっていくのですが、染料を入れても見た目は同じように黒っぽい糊の色になります。端切れに色糊をちょっとつけて、圧力鍋で色を定着し、水で洗って初めてその色が出ています。思い通りの色になった時は、とにかく嬉しいですね。蒸す時間・温度などによっても、染まり上がりの色が異なってくる大変デリケートな仕事ですので、難しさもありますが、嬉しさもあります。

染料を何色か組み合わせて、色をつくりあげます。

染料を何色か組み合わせて、色をつくりあげます。

糊に染料を入れた色糊。見た目はあまり変わりませんが緑・薄いグレー・ブルーなどの染料が入っています。

糊に染料を入れた色糊。見た目はあまり変わりませんが緑・薄いグレー・ブルーなどの染料が入っています。

端切れに色糊をつけ、圧力鍋で5分30秒蒸らします。

端切れに色糊をつけ、圧力鍋で5分30秒蒸らします。

蒸らした後、水洗いすると、染まり上がります。このテストをしながら思い通りの色を作っていきます。

蒸らした後、水洗いすると、染まり上がります。このテストをしながら思い通りの色を作っていきます。